集団的自衛権を考える 「ペシャワール会」現地代表・中村哲さん
この日記では、キーワードでも紹介しました中日新聞2014年5月3日の記事全文を以下に転載します。
元リンクは中央新聞のサイト(こちら)です。
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集団的自衛権を考える 「ペシャワール会」現地代表・中村哲さん
「9条は日本の歴史的遺産」と話す中村哲さん=福岡市で
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◆9条は歴史的遺産
アフガニスタンでは「憲法九条があってよかったな」と、日々思いながら暮らしています。身の危険を感じずに済むからです。
アフガンの人たちは米国が嫌いです。過去に侵略された英国も嫌いだし、白人系というだけで誘拐や攻撃の対象になる。ドイツ人が「私は米国人じゃない」と言ってもだめです。
でも、日本は特別な存在です。敗戦から復興した経緯が似ていると思われているのか、反政府側からも狙われることがありません。二〇〇八年八月にペシャワール会のメンバー一人が強盗に襲われて死亡しましたが、日本人だからという理由で狙われたわけではありません。
同じアジアでも、中国は唐の時代から争った歴史があり、好感を持つ人は少ない。韓国もベトナム戦争で米国の同盟国として一緒に戦ったことが知られているので、アフガンの人からは嫌われています。
米中枢同時テロの後、日本が米国の同盟国としてインド洋で給油活動をしたことは、アフガンでも知られています。でも、軍服を着た日本人が直接国内に来たわけではない。イラクでの活動も「人道復興支援」を大きく打ち出しました。そうでなければ、アフガンで活動する日本人がどんな扱いを受けていたことか。
九条の威力とは、そういうものだと思います。日本は軍事協力に消極的だった結果として、世界に敵をつくってこなかった。アフガンでは敵意ではなく、恩人としての意識だけが残った。それは日本のブランド力、歴史的遺産とも言うべきでしょう。
だから、集団的自衛権を使えるようにすることは、ひと言で言えば「危険」です。近隣国の敵意が増して緊張状態をつくり出すだけで、防衛になっていない。戦争以外の手段で国を守るのが戦後の理想だったのに、戦争ができた昔に戻す動きに見えてしまいます。
北朝鮮の核実験や中国の挑発があると国民はヒステリックになる。政治はその隙を突いてきます。軍備を増強しながら「積極的平和主義」などと言っても、他国は信じませんよ。いつけんかになってもいいように道具や仲間を増やしているとしか思われません。
積極的平和主義というのは、米国がアフガンでやろうとしていたことです。彼らの多くが「平和をもたらそう」とやってきましたが、人が死に、国が崩れ、破壊だけが残った。それがアフガン戦争の実態です。
米国の介入でアフガンの人々の暮らしは明らかにひどくなりました。活動を長く続けていて、こんなひどい状況は初めて。昔は考えたこともありません。
近年の戦争はなるべく自国の兵隊の犠牲を出さないように、無人機で攻撃する。手段を選ばない汚い戦争です。あの仲間に加わるのかと思うと、身が汚れるような気がします。
大事なのは、人間の犠牲を減らすための外交努力です。自分が殺されるのは嫌だから、相手も殺さない。これが普通の感覚じゃないですか。
<なかむら・てつ> 1946年、福岡県生まれ。アフガニスタンやパキスタンで診療などに従事する「ペシャワール会」の現地代表。
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転載元である(中央新聞のサイト)では、印刷用のPDFも用意しています。
そんな訳で、わざわざこの頁にコピペする必要は無いのですが、もし万一、記事が削除されるようなことがあったら……と考えると気が重いので、保存と拡散の意味を込めて転載することに致しました。
悪しからずご了承下さいませ。