一番好きなス入りぷりん
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私が一番好きなぷりんは喫茶店のぷりん、
子どもの頃、一度だけ入った、母の生家の近所の、
あの喫茶店のぶりん。
大昔は大変繁盛していたそうだけど、
その時には、すっかりさびれてすたれていた。
昭和レトロなんて、当時は誰も見向きもしなかった、
ただ、「ダサい」ものの象徴として、立っているのもやっとのように、建っていた(*)のだと思う。
そんな、人々が忘れかけたあの店に、何故、あの時、一家で入ることになったのか、
私の記憶の中ではとても珍しい、父も含めた団体行動だった。
きっと、法事が何かで父もいて、母が懐かしくていざなったのだろう、
店内はうす暗く、
出されたカスタードプリンは、なんと傷んでいた。
けれど、私はその姿に一目で恋に堕ちてしまったのだ。
初めて見る「偽物」では無いぷりん、
恐らく、「本物」のぷりん、
美しいフォルム、
魅惑の肌理、
本体と一体化して、したたり流れるカラメル、
私のぷりんの完成形は、
今でもあの、腐った喫茶店のぷりんだ。
一口だけで取り上げられた、カスタード・プディングだ。
だからちょっとスが入っている。
あの、ちょっと焼きすぎて、
ちょっとスの入ったあばた状の肌理は、
粉のぶりんには無い、「本物」感の象徴なのです。
(*)この喫茶店はその後、程なくして閉店してしまいました。お店は取り壊されて更地になり、更に区画整理されて、「ああ、この辺にあったなぁ」と記憶をたぐり寄せないとならなくなりました。「立っているのがやっとのように建っていた」とは、そういう意味を込めました。
・ 「ぷりん型考」につづきます。
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写真1枚目:お店のプリンパフェ
写真2枚目:お家DEデコぷりん
写真3枚目:お家DEしか出来ない和皿DEデコっちゃったぷりん(^-^;)