亡骸
死んだ人の亡骸が見たいなんて、
人間だけなんだろうか?
じゃあ、あれは?
道路の真ん中の、
轢かれた母猫に擦り寄る子猫は?
何里も離れた仲間に、
仲間の死を知らせるというサバンナの象は?
そんな事を考えながら飛行機の中で過ごす。
彼の気遣いで、座席は一段上のクラスになっている。
稼ぎの悪くない夫とご縁があったことに、改めて感謝する。
急な事だったので、切符も宿もレンタカーもかなりの高額になった。
夏のボーナスがふっ飛んでしまった。
それでも行っておいでと言ってくれた彼。
それでも行って、そこにあるのは死体なのに。
もっと嬉しいことに遣う筈の金だった。
二人で楽しいことに遣う筈の金だった。
これだけの金を独りで遣って、
行く先にあるのは、
恩師の亡骸だけなのに。